東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)127号 判決
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〔事実〕第二請求の原因<前略>
二 本願発明の要旨
ポリエステル積層物を硬化させるとき、この表面を水分を含有膨脹させた「セロハン」紙で包み、この「セロハン」紙の水分を蒸発させて「セロハン」紙の乾燥収縮力によりこの積層物を加圧圧着させて後、この「ポリエステル」積層物を硬化させることを特徴とする「ポリエステル」積層物の成型法。<中略>
四 本件審決を取り消すべき事由<前略>
本願発明は、ポリエステル樹脂をガラス繊維により強化した強化ポリエステルの成型法において、従来のセロハンの乾燥による収縮力利用の方法を改良し、成型にあたり、硬化前にポリエステル積層物中の気泡を追い出し、優れた製品を得ることを目的とするものであり、引用例のものは、ガラス繊維を合成樹脂とともに硬着した強靱な細長管に関するものであり、これには、ガラス繊維またはその細い撚糸を多数集めた太い糸を経糸とし、僅少の繊維を集めた細い糸を緯糸として、織成した織布を合成樹脂溶液に浸漬して、この溶液を織布の繊維組織内部に浸透せしめ、これを半乾燥状態に乾燥し、芯金の周囲に巻き取り、その外周にセロハンテープを螺旋状に巻き付け緊締せしめて加熱乾燥することを特徴とする繊維組織の合成樹脂管製造方法が記載されている。
本願発明と引用例とを対比すると、(1)セロハンについて、前者では水分を含有膨脹させたものを使用するが、後者ではこのような加工をしないものを使用し、(2)セロハンで巻き締める時期について、前者では合成樹脂がまだ流動状態の時に行なうが、後者ではセロハンテープ巻き付けの時には合成樹脂は半乾燥状態になり流動性を失つており、(3)セロハンの乾燥について、前者では硬化前に常温で乾燥し合成樹脂が流動状態を失わない間にセロハンの収縮が起こるが、後者では加熱乾燥するからセロハンの乾燥収縮とともに半乾燥状態の合成樹脂の硬化も進む。
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決にはその主張の点に判断を誤つた違法がある旨主張するが、この主張は理由がないものというほかはない。すなわち、
原告主張の相違点の有無についてみるに、本願発明の要旨は、前記のとおりであるところ、特許願および明細書、訂正書および弁論の全趣旨によれば、ポリエステル積層物が作られた直後には、その中に含まれるポリエステルは通常流動状態であること、その成型に際し気泡を追い出し完全な製品を得ることが本願発明の目的であること、および本願特許請求の範囲には「「ポリエステル」積層物を硬化させるとき、……この積層物を加圧圧着させて後この「ポリエステル」積層物を硬化させる」との記載があることが認められ、これによれば、作られたポリエステル積層物がセロハン紙により加圧圧着されるまで、ポリエステル樹脂に流動性を失わせる程の変化を起こさせない状態に置く趣旨と解せられるが、引用例には、原告主張のとおりの記載があるので、これを本願発明と対比すると、原告主張の(1)および(2)の相違点ならびに(3)の相違点につき、(イ)本願発明においては、セロハンの乾燥条件につきポリエステル樹脂に流動性を失わせる程の変化を起こさせない状態で、という以上には限定もないが引用例においては、加熱乾燥すること、また、(ロ)本願発明においては、合成樹脂が流動状態を失わない間にセロハンの収縮が起こるが、引用例のものにおいては、セロハンの乾燥収縮とともに半乾燥状態の合成樹脂の硬化が進むことが認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。
前認定の相違点についてみるに、相違点(1)については、水分を含有膨脹させたセロハン紙というだけでは、自然状態よりも含有水分が多いセロハン紙ということはできるが、自然状態よりもどの程度含有水分が多いかにつきなんらの限定もなく、セロハン紙の普通の含水量が約五%〜一〇%であることは当事者間に争いないところ、原告は本願のものはそのうえにさらに五%〜一〇%の水分を含ませたものであると主張するが、単に「水分を含有膨脹させたセロハン紙」というだけではそのように解することはできず、前顕発明の詳細なる説明の項にも右主張のように解しうる根拠となるべき記載はないから、右主張は理由がなく、しかも、その乾燥方法について、相違点(3)の(イ)に示すような条件の下で水分を蒸発させて乾燥収縮させたからといつて、この点において普通のセロハン紙を加熱乾燥する引用例の場合に比し、その効果において格別顕著な差異があることを認めるべき証拠もないこと後記認定のとおりであるから、このようなことは、引用例から当業者が容易に推考しうる程度のものということができる。<証拠>および弁論の全趣旨によれば、相違点(2)は本件特許出願前周知の技術であることが認められ、相違点(3)の(ロ)については、本願発明においてセロハン紙収縮時の合成樹脂の流動性の程度につきなんら具体的な限定はなく、両者とも合成樹脂の加圧圧着性が失われない間にセロハン紙の収縮を起こさせる点において一致するのであるから、この点は、引用例から容易に推考しうる程度のことにすぎない。
原告は、本願発明の方法においては、前記の各相違点があるため、積層物中のポリエステルが流動状態を保つ間にセロハンの収縮が起こり、ポリエステル積層物を締め付けて空気を絞り出す作用があり、気泡が追い出され、優れた製品が得られる旨主張し、本願特許願には、実施例として真空槽で乾燥する場合につき気泡追出しの効果があるとの記載があるが、この記載は原告本人尋間の結果に照らし合わせて採用し難く、他にこの主張事実を認めることのできる証拠はない。また、原告は、本願のポリエステル積層物は、ガラス繊維が多いため深部の空気も絞り出される、と主張するが、前記本願発明の要旨に照らし、積層物につきそのような限定を認めることはできないから、この主張も理由がない。
したがつて、本願発明は、引用例の記載に同じくセロハンの乾燥による収縮力を利用する前記各技術を結び付けて、当業者が容易に推考しうる程度のものとみるを相当とする。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。
(三宅正雄 土肥原光圀 武居二郎)